遥か昔にとんでもないクオリティのアルバムが世に誕生した。多分宇多田ヒカルのデビューアルバムの衝撃に準ずるくらいのアルバムであった。その名はatomic Heart。それまで何処かポップなイメージのあったミスチルが世に放った期待を裏切る快作である。
そう。ミスチルはロックバンドだった。世間のイメージを自らで壊す。それが本来のロックかも知れない。とはいえゴリゴリのロックサウンドだけではなくストリングスを効かせたりバラードを奏でたり多彩だ。
そんなミスチルの名刺代わりの作品である本作について全曲レビューである。とはいえインストゥルメンタル作品については割愛します。すみません。
1.Printing [0:24]
2.Dance Dance Dance [4:57]
これはのっけからかなりのロック色強めの楽曲。自分達の状況を「みんなでファッション舞い上がれ落ちる定めのヒットチャート」と軽快に自虐してみせる。ただ、ミスチルは一瞬の流行では無いのは結果が証明してるが。
ただ、何処かでそう思われたフシがあったのかそれすら歌詞にしてみせる。どこか堕落に向かうようなどうしようもない状況をダンスに例えてみんなで踊り狂えと歌うどこか不思議な楽曲。前向きなのか後ろ向きなのか分からない。
そして、
カッティングギターリフが注目の楽曲です。
3.ラヴ コネクション [4:57]
海外のバンドに影響を受けてそうなサウンド。今作ではモロに出ています笑ライブでアゲるために作られたような軽快な楽曲。とにかくこの頃のミスチルには勢いがあった。
その勢いを感じさせる楽曲。楽曲中に付き合ってる彼女に向かって煽りまくるようなワードが沢山出る。「一体どうして欲しいんだ」「なんだかんだ言ったって老いてく君の美貌」優しく寄り添うミスチルはそこには無い笑
ダーティーな歌詞を明るいサウンドでカバーしたお祭り騒ぎのようだ。ここまで割とロック作品が続いたがここで見限るのはまだ早い。これで終わるようなミスチルではない。
4.innocent world [5:45]
言わずと知れたシングル曲。もちろん、ミリオン楽曲です。ここで安心の心地よいサウンドが来て見事にミスチルの振れ幅の大きさを思い知らされる。この曲のイントロ考えたのは浜ちゃんことギターの田原。神がかっている。
ポップで優しいサウンドが心地よい。そして世の中の辛さと温かさの両面をこの辺りから出して来たと思われる歌詞。ミスチルの良い所は世の中の良い面も悪い面も包み隠さず全部歌詞にする事だ。
この明るいアップテンポなサウンドはザ王道とも言えるし今聞くと古臭さは否めないがそれを鑑みても余りあるくらいのクオリティでご馳走様ですと言いたい。
5.クラスメイト [5:27]
なんか気だるげな落ち着いた曲調の楽曲。それでいてゴージャスな一曲。昼下がりに聴くと雰囲気出るかも。彼氏持ちの昔のクラスメイトといけない交際を始める男性の曲。
なんだろうミスチルが作るといけない関係を歌っていても名曲に早変わりする。タブーでもなんでも歌にして芸術に昇華してしまう。着眼点が違うんでしょうな。卑近な出来事も地球規模のテーマも料理してしまう。まるでj-pop界の手塚治虫だ。
6.CROSS ROAD [4:33]
暖かいサウンドとどこか懐かしくて歌詞が沁みるそんな楽曲。彼らの出世作でシングル曲。
誰もが胸の奥に秘めた迷いの中で
というフレーズがあるのだが名もなき詩の
自分らしさの檻の中でもがいてるなら
誰だってそう僕だってそうなんだ
に通じるものがある。そう彼らのターゲットはもう全年齢男女問わずです。それを感じさせる誰もがというかフレーズ。誰にも当てはまる事を歌にする。改めて懐の深さを感じさせる。
7.ジェラシー [6:41]
ピコピコ音。電子音楽を取り入れた楽曲。彼らってバンドサウンドである事に拘りがある訳じゃ無さそう。あくまで作りたい音楽はバラエティーに富んでいたいという意欲を感じる。
なんかそのスタイルはひと昔のバンドのunicornに似てるかも。彼らもアルバムの中でストリングを取り入れたり民族楽器、レゲエ風とかボサノバ、オーケストラと音楽がバラエティーに富んでいた。
男女のすれ違いを唄いながらもミクロ規模やマクロ規模の事も唄ってる。ミスチルは人類の性をテーマにするのが大好きなようだ。特定の誰かに刺さるというより全人類に当てはまる事を歌にしたいと狙っているのではないか。
8.Asia (エイジア) [5:22]
僕らの民族をテーマにした壮大な楽曲。イントロ無しで歌い出す。作曲はあのjenことドラムの鈴木。めっちゃ才能を感じさせる。ミスチルの第二の天才。ひょっとして桜井抜きでもそこそこ凄いバンドになるのではと思わされた。
精神世界を歌っているようでなおかつ国の情景を歌う。どことなく寂しいだけどクセになる曲です。スルメ曲かな?
9.Rain [0:20]
10.雨のち晴れ [5:33]
明るい能天気なサウンド。桜井がラップ調で肩の力抜いて脱力しながら歌う。だけど内容は能天気じゃなくて絶望感漂う。何もかも諦めたつつあるサラリーマンの男の哀愁を歌う。
男は単調な生活を変える事を諦め、出世も諦め、結婚したい願望はあるがそれすらも諦めつつある。それを陽気に軽やかに歌う。救いは楽曲が明るいところか。
不思議だなあ。なんであんな風に成功した男がうだつの上がらないサラリーマンの気持ちがあんなにも理解出来るのだろう?桜井和寿の不思議。
余談だが僕はシーソーゲーム出たあたりのドームツアーに行った時にコレを生で聴いた。なんかダンサーが傘持って踊っていて笑った。脱力する楽曲。曲の最後に微かに希望を歌う。
11.Round About 〜孤独の肖像〜 [5:25]
かっこよいタイトル。何処となく古い感じが漂うサウンド。わざとだろう。渋谷とかの街が真っ先に思い浮かぶ。多分モチーフはそれだろう。刹那なその場だけが楽しい生き方を選ぶ若者達を痛烈に斬る歌詞。その虚しい生き方をコレでもかと斬りまくる。
その割に神の御加護が有りますようにと優しさを見せる。この曲の見所はサックス🎷ミスチルの曲にはサックスが似合う。抱きしめたいにもサックスが出てきたっけ?2番サビの後にサックスソロが有るので必聴です!
12.Over [4:43]
シングルじゃないの?と勘違いされるくらい人気の楽曲。タイトルの意味は文字通り最後。恋愛が終わりを迎えるゲームオーバー。試合終了である。
曲の最初の鍵盤楽器が優しくて何処か物悲しい。付き合っていた女性の見た目をためらいもなく歌い上げる笑でもなんとなく許せるような面白い楽曲である。
情け無いけど何処か男性からの支持を得そうな歌詞の内容となっている。夕焼けの雲みたいにふわふわしていたいと高らかに歌う。いつも考えすぎて失敗してきたようだ。
そして凡百な失恋曲をはみ出して余りある全体的に個性的な歌詞。その哀しみはいつか将来に何処かの街でその彼女とすれ違う事があっても年齢を経て前みたいに綺麗になってない彼女。愛してた事すら忘れてしまう無常感にまで発展していく。
諸行は無常なのです。男は女性を愛していたその記憶を残したい。爪痕を残したいと考える生き物なのです。だが時は無残に何も無かったかのように動き出して何もかもが幻に変えていく
楽曲の最後に男はその哀しみを乗り越えて前に進もうと歌い上げる。
○結びに
3000文字超えの長編になりました。これでもだいぶ余分な部分カットしました😅機会を見て他のミスチルのアルバムレビューにも挑戦してみます。
ミスチルの初期アルバムの中ではかなりのまとまっていて核になる曲も多い。何度も繰り返し聴くに値する名盤である。