今までのミスチルアルバムレビュー
というわけで久しぶりのアルバムレビュー。ようやくシフクノオトまで来た。このアルバムは00年代のミスチルのアルバムの最高傑作です。前作のアルバムも最高傑作だったけど前作と合わせてツートップとして扱っていいのではないだろうか。
前作はポップでわかりやすい曲に振り切った印象だけど今作はメッセージ性が強いというかかなり真面目に真摯に作ったという感じ。骨太で無骨でゴリゴリに自分たちの内面性を浮き彫りにするような内容だけど完成度は高い。ちなみに00年代のミスチルのアルバムの中で一番売れたらしい納得の一作なのである。それでは早速行ってみよう。
1.言わせてみてぇもんだ
ミスチル特有の意味不明なタイトル。何を言わせてみたいのかは曲を聴いてみればわかる。なるほどねと。酒場で何者でもない冴えないおじさんが呑んでクダ巻いて喚いているような内容の歌詞になっている。
これを何者かになって成功して冴えまくっているミスチルの桜井和寿が作って歌ってるというのが面白い。絶対に自分に当てはまらないだろうという内容だけど。でもそれでも問いかけるのだ。"どうしようもなく必要って言わせてみてえモンだ"と。
多分だけどスーパースターになった今も自分が世の中に必要なのか実感がない故の問いかけかもしれない。虚業でお金を稼いでる感じが拭えないので誰かに認めて欲しいと。一曲目からゴリゴリの本音丸出しの意欲作である。
2.PADDLE
なんかのCM曲にもなってたポップな名作。人気も高いしわかりやすい楽曲。クダ巻いていた一曲目と打って変わり前向きで明るい。
"新しい記号を探しにフラスコの中飛び込んで"と歌詞にあるがフラスコというワードがJポップに出てくるのも珍しいと思う。凄く内向的だなという印象を受ける。普通は大海原に出かけてみようとかになるんだろうけどあえてフラスコみたいな小さい世界に飛び込んでみようと。ミスチルらしい。
"いい事があってこその笑顔じゃなくて笑顔でいりゃいい事あると思えたらそれがいい事の序章です"という歌詞が2番にあるんだけど爽快で晴れやかで実によろしい。
3.掌
一時期、民俗音楽的なものが巷で流行っていた時が00年代にあったと記憶してる。この曲は25枚目のシングル曲だけど少し民俗音楽的な感じのサウンドで壮大なテーマを歌にしている。
僕たちは分かり合えないし人それぞれ違いがある。だけど認め合いたくて一つになりたくてもがいていると。泥臭くてみっともない姿だけど人間なんてそんなモンなんだよと。
このアルバムの方向性をしめすかのような楽曲になっている。この曲と後に紹介するタガダメという楽曲がある意味アルバムの象徴とも言える。真面目で荒々しくて内向的である。
4.くるみ
冒頭にハーモニカが入ってるゆるくて優しいサウンド。語りかける言葉使いも優しい。くるみというのは女性の名前という説もあるがこれから来る未来という"くるみらい"のくるみという説が濃厚である。
PVで歳をとってじいさんになったミスチルが出てくる。それを象徴するかのように歌詞の内容も歳を取ったおじさんが何も感情が動く出来事がなかったり過去の良かった時代を振り返る事しか出来ない現状を嘆く内容になっている。
その悲しい現実が優しいサウンドに包まれて余計に悲しい。最後に"引き返しちゃいけないよね進もう君のいない道の上へ"という言葉があるがそこだけを切り取るとくるみはやはり女性の名前なのでは?と思ってしまう。真実はどうなのだろうか?
5.花言葉
ミスチル得意の失恋ソング。魔がさした僕という歌詞にあるように主人公が一方的に悪いのである。だけど都合の良い感じで僕の全て君に知って欲しかったと身勝手に歌う。男というのは紛う事なく身勝手な生き物である。
6.Pink 〜奇妙な夢
不気味な怪作。まさしく奇妙と評するにふさわしい。他人にこの曲が地味に好きだとは言いにくいけど隠れたファンは多いと思う。出だしのサウンドから不穏で終始不気味である。
歌詞も比喩表現満載でわかりにくい。夢の中の出来事とリアルが少しリンクしていてどちらが夢でリアルか区別がつかなくなっている。不気味な映画を観ている感覚。
7.血の管
奇妙な夢と続いてる連作を思わせる不気味な小作。タイトルからして不穏すぎる。だけどめちゃくちゃ美しいサウンドで壮大である。これも他人にこの曲が好きだとは言いにくいけど地味に好きである。
歌詞の内容からもわかるように葬送ソングである。救いのない内容だけどサウンドが美しいからなんとか聴けてしまう作りになっている。
8.空風の帰り道
空風というワードチョイスがまたも素晴らしい。観察眼が優れているのよね。よく引っ張ってきたなという感じ。青春丸出しで甘酸っぱい面映い楽曲である。
9.Any
23枚目のシングル曲。確かNTTのCMタイアップに使われた記憶が。内向的なこのアルバムを象徴するかのように自分の内面に向き合った内容となっている。
この曲の救いは"今僕がいる場所が探してたのと違っても間違いじゃないきっと答えは一つじゃない"というサビのフレーズ。これに救われた人も多いのでは。
人はたらればをすぐに言いたくなる生き物である。あの時転職に失敗しなけりゃもう少し明るい人生になってたかなとかあの時離婚しなけりゃ奥さんや子供とまだ楽しくやれていたのかなとか不本意な未来を選択してしまって後悔するのが人間である。
その不本意な未来さえも肯定して間違いじゃないし答えは一つじゃないと受け入れる事でどれだけ救われたかわからない。望んだ未来に僕が立っていなくてもそれはそれだよと。赤塚不二夫のこれでいいのだに通じる今を肯定する前向きさである。
10.天頂バス
僕は以前にこの楽曲のレビューを書いていた。それがこちら💁♂️
このアルバムレビューに到達するまでに我慢出来なくて早漏気味で書いてしまっていた😅それくらい思い入れが強いのだ。ほとんど前のレビューで言ってしまったので言う事ないです。申し訳ない。
11.タガタメ
超絶壮大なメッセージソング。このアルバムを象徴している。カップヌードルのCMソングにもなっていた。
この世界の怒りや悲しみにこれから何度出会わなきゃいけないのかなとかこれからの子供達を加害者や被害者にしたくないから僕らに何か出来る事はないのかと歌詞の中で嘆く。
家族のいる親としての目線で描かれている。人間桜井和寿としてのリアルな感情をぶちまけたようなホットな楽曲である。1番素の自分に近い感情で書いたのではないかと思う。
12.HERO
24枚目のシングル。のっけの歌詞から打算的で情け無い他人任せの主人公が描かれている。でも実際は人ってそんなモンだと思う。漫画やアニメの主人公みたいに自分を犠牲にして人類を救ってみせるなんてのはどこか綺麗事で実行不可能ではないか。
だけどそんな僕だけど君のためにはHEROでありたいと歌う。これがリアルの等身大の僕のHERO像だと主張する。素晴らしい。人類のためのHEROになりたいというとどこか嘘くさくて胡散くさいけど。このアルバムの最後を締めるにふさわしい楽曲である。